夫婦、JASONS、たのしみ

この家にはいろんな人が住んできた変遷があり、今の私の部屋は、ものごころついてから7歳まで私の部屋で、その後母と私が日本へ移住し、台北日本人学校に新しく赴任してきた若い先生家族にこの家を貸したので、そこの家の子どもがきっと私の部屋を自分の部屋としたんだのだろう。結局母が「やっぱりあんまり人に貸したくない」と言い出して、母の弟家族がここに住むことになった。母の弟は、結婚前にここに住んでいた時期もあったのでここに住むのは二度目。今度はもう奥さんと子どもがいて、その子どもというのがホンイーだ。私の部屋には私の使っていた子ども用ベッドがあったので、ここはそのままホンイーの部屋になり、しばらくしてホンイーに妹ができると、この部屋には二段ベッドが入って、二人の子ども部屋になった。妹が大きくなって二人の部屋を別々にすることになり、この部屋は妹の方が受け継いで、二段ベッドの空いている方には、おばが来て寝たり、いとこたちのお母さんの実家・南投ブヌンのいとこが台北で看護師をしていた時期そこに寝たりしていた。妹が高校を卒業し、台南の大学に入って、卒業後はオーストラリアへ数年行くことになったのでこの部屋もしばらく空いて、二段ベッドは山の家に持っていき、シングルベッドを2台入れ、おじいちゃんとおばあちゃんが台北で病院に行く時などにはここに泊まった。いとこの荷物は廊下を挟んで向かいの部屋に移されて、そこがそのままいとこの部屋になって、台北に戻って会社勤めしているいとこは今そこに住んでいる。週末になると、この間結婚した夫が台中からやってきて、そこはいとこ夫婦の部屋になる。

 

彼らの週末婚は、時々いとこの方が台中へ行くこともあるが、たいていは夫がこっちにやってくるので、今週末も私の部屋の向かいは夫婦の部屋だ。二人は一応新婚だけど、いとこは大学に入って最初に付き合った彼氏とずっと付き合ってそのまま結婚したので、夫になる前から彼はうちによく泊まりに来ていたし、結婚したといっても今までと特に変わらない。台北の多くの人たちがそうであるように、この二人も食事は朝ごはんからほとんど全てを外食で済ませているので、この家で一緒にごはんを食べることはほとんどない。台湾の人はあんまり自炊をしない。小さいマンションだとそもそもキッチンのない部屋も多く、あっても暑いから家の中で火を使いたくないという人も多いだろうし、せっかくご飯をつくってもすぐにダメになって、このくらいの時期には朝作ったものが夕方にはもう酸っぱくなっていたりする。ちょっとした外食のできる安い食堂がそこら中に大量にあるし、屋台も夜市もコンビニもたくさんあって、よっぽどの田舎でないかぎり、家を出て5分も歩けば食べものに困らない。逆に言うと、日本的な感覚でいうとかなり辺鄙な場所でも、10分も歩いたら何か食べられる。徒歩10分というのは、台湾人にはかなりの距離なのだ。そんなわけでうちの若い夫婦はほとんどずっと出かけていて、家で見かけるのは、早朝か夜遅くに家でごろごろしている時、もしくは洗濯のときくらいだ。洗濯はすべて夫が担当していて、これは台湾ではちっとも珍しいことではない。この国では料理、洗濯、買いものなど家事はすべて夫の仕事、じゃあ妻は何をしているかといえばその全体の指示と命令、そんな感じなのだ。いとこ夫婦もまさにこのスタイルで、せっせといとこの分の洗濯物もきっちり干している夫の様子を眺めながら、いいなあ、あんなに家事してもらえるなんて、私も台湾人と結婚したいなあ、と日本人的気分で眺めていると、「いつまで干してるの? まだお皿も洗ってなかったよね?」と鬼姑のように、いとこは部屋から出てきもせずに夫に向かって叫んでいる。母や私には決して使うことのない声でまくし立てるので、横で聞いていると最初のうちはドキッとしたが、台湾では夫婦間コミュニケーションってこんな感じで、こんなとき夫は大体へへへとただ笑っている。口答えはしない。喧嘩にも言い合いにもならない。

 

今日はずっと雨も降らず、暑い。せっかく炊いた玄米がダメになってきたので、母が洗ってザルに入れ水を切り、試しにベランダに出したらタイワンオナガがさっそく食べに来た。ベランダにたくさんやって来るどの鳥を見ても、色合いと模様がそれぞれに美しくて感心してしまう。人間もそういえば、カラフルで派手なファッションが好きな人は南国の鳥みたいに見えたり、日本のおばあちゃんがグレーとかなんともいえない紫とか深緑の洋服を好んで身につけてるあの色合いは公園の鳩っぽい。このタイワンオナガも、人間でこういうシャープな色合わせが好きな人いるよね、という感じの、頭、下半身、長い尻尾は紺のように光る濡れた黒、体の真ん中はベージュがかった明るい茶色で、お腹のところだけ白、嘴は真っ黒で大きい。ユニクロでおしゃれしてみたみたいな感じ? 目はまん丸くて大きくて、なんでかわからないけど口を開いてぽかんとしているのをよく見かける。

 

夜は母と散歩の代わりに、古亭駅のちょっと先まで歩いてJASONSというスーパーへ買いものへ。東京で言うところの成城石井みたいな輸入品の品揃えが多いスーパーで、品物もちょっといいのが置いてある。今朝の豆漿づくりで大量発生したおからで蒸しパンをつくってみようと思っていて、私は薄力粉さえ買えればどこでもよかったので、何もこんなに高級なスーパーに来なくてもよかったが、味噌を買いたいと言う母が、JASONSには美味しいのがあるから言うので、久しぶりだし一緒に来た。まだJASONSが微風廣場の地下にしかなかった15年前、私は時々わざわざ出かけて行って、輸入物のめずらしいオーガニックのハーブティなど買って、おいしいかおいしくないか何とも言えないお茶をいれては、騙されてもいいわと素敵な気持ちになっていた。今日は製菓材料のコーナーに行ってみると、日清のいわゆる普通の薄力粉が輸入品として日本円換算で1000円くらいで売られていて、私はあの頃もこうやって騙されていたのかと、こうもあからさまにわかると複雑な気持ちになった。仕方ないので、少し高いけどどうせならとニュージーランドの薄力粉を手にとると「せっかく日本の売ってるのに、こっちにしないでいいの?」と母がわざわざ聞いてくる。

 

さて明日はたのしみが続く日。午後はついに青学の順子先生のゼミのゲスト。初のZoomトーク、Zoomライブをしてみる予定。そしてそのあと、ついに子猫を迎えに行く。